大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 昭和52年(行ウ)4号 判決

原告

正岡尚栄

原告

田上芳吾

原告

川上茂喜

右三名訴訟代理人

伊藤一郎

川添賢治

被告

下元國良

右訴訟代理人

中平博

主文

一  原告らの主位的請求を棄却する。

二  被告は、大野見村に対し、金三二六万四九三四円及びこれに対する昭和五二年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの予備的請求のうち、その余の部分を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの、その余を被告の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  主位的請求

被告は、大野見村に対し、金四五九三万五七五二円及びこれに対する昭和五二年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  予備的請求

被告は、大野見村に対し、金一七四三万五七五二円及びこれに対する昭和五二年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも大野見村の住民であり、被告は、昭和四二年以来同村長の職にある者である。

2  被告は、大野見村長として、昭和四三年三月一一日同村議会に対し、昭和三八年台風による同村の蒙つた激甚災害の復旧工事等の財源確保のため緊急を要すると称して、同村所有にかかる高知県高岡郡大野見村竹原字オソゴエ山一二一五番九山林一九万八三四七平方メートル外一二筆の山林を大野見村森林組合へ売り渡す旨の議案を提出し、同議案は同日可決された。被告は、右議決に基づき、同月一八日森林組合との間で右内容の売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同月二六日売買代金二八五〇万円を受領した。ところで、本件契約は、一〇年後に買い戻す旨の特約が付され、買戻時までの利率も年7.5パーセントと定められ、実質的には、右山林を担保として右二八五〇万円を借り入れるというものであつた(以下「本件借入れ」という。)。

その後、被告は、本件山林を買い戻すこととし、昭和五一年四月二三日、村議会の議決を経たうえ、森林組合との間で買戻契約を締結し、昭和五一年度大野見村一般会計より、右二八五〇万円及びこれに対する年7.5パーセントの割合による利息一七四三万五七五二円の合計四五九三万五七五二円を支払つて、右山林を買い戻しその所有権移転登記を了した。

3  ところで、原告らは、本件借入金二八五〇万円の使途について調査したところ、まず、うち二二〇〇万円については、昭和四二年から昭和四四年の各年度の一般会計に分割して繰り入れられているものの、その余の六五〇万円は、大野見村の会計に全く入金されていないことが判明した。また、一般会計へ繰り入れられた二二〇〇万円についても、被告及び大野見村職員らは、林道工事、学校給食センター建設等に支出したと説明するけれども、そもそも災害復旧のため緊要であるとして借り入れた金員を三年度に分割して一般会計へ繰り入れていること自体、極めて不合理であるのみならず、被告らの右説明にかかる林道工事及び学校給食センターの建設は、地元民の負担若しくは高知県よりの補助金によつて賄われ、大野見村からは全く支出されていないところであつて、右説明は明らかに虚偽である。

このように二八五〇万円の使途は不明であり、この点を更に追求するも、被告は、言を左右にして明確なる答弁を避けているものであつて、結局のところ、被告が二八五〇万円を自己の用途に費消し業務上横領したものと断ぜざるを得ないのである。

したがつて、被告は、自己の責任でその返済をなすべきであるにも拘らず、前記のとおり元利金合計四五九三万五七五二円を大野見村の一般会計より支出しているものであるから、被告は、大野見村に対し、違法に右相当額の損害を与えたものというべく、これを賠償する義務がある。

4  仮に、業務上横領の事実が認められないとしても、本件借入金二八五〇万円は、次年度以降も負債として継続していたものであるから、地方自治法二三〇条、二五〇条に従つて県知事の許可を受けて地方債を起こす方法によるべきであるのに、被告は、これに反して前記方法によつて借入れをしたものであり、明らかに違法な借入れである。そうすると、右違法な借入れに基づく利息の支払もまた違法たるを免れず、これにより、大野見村は、支払利息一七四三万五七五二円相当の損害を蒙つたものというべきである。したがつて、被告は、これを賠償する義務がある。

5  また、本件借入金は、激甚災害の復旧工事のため必要であるとして借り入れたものであるのに、実際は、災害復旧とは何ら関係のないものに費消され、うち九五二万六二二〇円は農林中央金庫発行の割引農林債券(以下「ワリノー」という。)の購入に充てられているほどである。すなわち、被告は、緊急を要しない支出のために漫然と借り入れたものであつて、本件借入れは不必要であつたといわざるを得ないのである。

そうすると、本件借入れにより、大野見村は、本来必要もない多額の利息の支払を余儀なくされ、これと相当額の損害一七四三万五七五二円を蒙つたものということができ、かかる損害をもたらした被告の借入行為は、村財政の管理運営に対する村長としての注意義務に違反したものとして違法であるから、被告は、右損害を賠償する義務がある。

6  そこで、原告らは、昭和五二年七月四日、大野見村監査委員に対し、被告の前記各違法行為により大野見村の蒙つた損害を被告に賠償させるため必要な措置を講ずべきことを求めて監査請求を行つたところ、同監査委員は、同月二七日付をもつて、右請求は当該行為から一年以上経過しているとして、これを不受理とする旨決定し、その旨を原告らに通知した。

7  しかしながら、原告らは、右監査結果に不服であるから、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定により大野見村に代位して、被告に対し、主位的には前記四五九三万五七五二円及びこれに対する訴状送達日の翌日である昭和五二年九月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、予備的には前記一七四三万五七五二円及びこれに対する右同様の遅延損害金を、大野見村に支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、二二〇〇万円が三年度の一般会計にわたつて繰り入れられていることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、本件借入れが地方自治法二三〇条、二五〇条に反することは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同5の事実のうち、九五二万六二二〇円でワリノーを購入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同6の事実は認める。

三  被告の主張

1  本件借入金二八五〇万円の費消状況について

本件借入金二八五〇万円は、すべて大野見村のために支出されているものであつて、これを被告が業務上横領したとする原告らの主張は失当である。

すなわち、被告は、借り入れた二八五〇万円のうち、まず一二九一万円を昭和四二年度一般会計に、六〇〇万円を昭和四三年度一般会計にそれぞれ繰り入れたのち、本件契約の諸費用六万三七八〇円を控除した九五二万六二二〇円については、後年度へ繰り越さざるを得なくなつたため、運用利息を捻出しながら各年度に支出する目的のもとにワリノーを購入し、以後、大野見村監査委員の監査を受けながらワリノーを運用し、次のとおり各年度の一般会計に順次繰り入れた。

昭和四四年度 三〇九万〇〇〇〇円

昭和四六年度 二一三万八〇〇〇円

昭和四七年度 二一四万〇〇〇〇円

昭和四八年度 二一三万八〇〇〇円

昭和四九年度 二一三万八〇〇〇円

右の合計額は一一六四万四〇〇〇円であり、これに昭和四二年度及び昭和四三年度の繰入金合計一八九一万円を加えると、総合計は三〇五五万四〇〇〇円となる。

被告は、右のとおり、本件借入金とその運用利息をすべて大野見村一般会計へ繰り入れ、同村の運営のために支出しているものであり、これにつき何らの不正もない。

2  地方自治法違反の借入れによる損害の有無について

(一) 地方債を起こす方法によるべきところをこれによらずに借り入れた場合、借入れに伴う利息の支払がすべて損害となるわけではない。すなわち、地方債を起こす方法によつても利息の負担は避けることができないのであるから、地方債発行に伴い通常負担するであろう利息等の費用に相当する額は、損害にあたらないというべきである。したがつて、本件借入れによる損害の有無は、本件借入れに伴う利息と地方債発行によつた場合に通常必要な利息との比較により判断されなければならない。

(二) 本件借入金に対する利息は一七四三万五七五二円である。しかし、他方において、前記ワリノーの購入による借入金の運用によつて合計二三〇万一八三〇円の収入を得ている。その内訳は次のとおりである。

(1) 利息

昭和四四年度 五四万三七八〇円

昭和四五年度 四四万三四六〇円

昭和四六年度 二九万二一四〇円

昭和四七年度 三三万四〇七五円

昭和四八年度 二〇万六九七六円

昭和四九年度 一九万六八三〇円

昭和五〇年度 一三万三四八七円

合計 二一五万〇七四八円

(2) 源泉徴収税払戻金

昭和四四年度 二万八六一九円

昭和四五年度 二万三三三九円

昭和四六年度 一万五三七五円

昭和四七年度 二万九〇五〇円

昭和四八年度 一万七九九七円

昭和四九年度 二万一八七〇円

昭和五〇年度 一万四八三二円

合計 一五万一〇八二円

そうすると、本件借入金に対する実質的な利息は、右収入を控除したものと考えるべきであるから一五一三万三九二二円となる。

(三) 他方、本件借入れを地方債を起こす方法によつた場合、その現資となる政府資金の利率は、昭和四二年度から昭和四六年度までが年6.5パーセント、昭和四七年度が年6.2パーセント、昭和四八、五〇、五一年度が7.5パーセント、昭和四九年度が八パーセントであつたから、昭和四三年三月二六日から昭和五一年四月二三日までの利息は、左記の計算式により一五八九万二一七二円となる。

① 昭和43年3月26日から昭和44年3月10日まで

② 昭和44年3月11日から昭和47年3月10日まで

28,500,000×0.065×3

=5,557,500

③ 昭和47年3月11日から昭和48年3月9日まで

④ 昭和48年3月10日から昭和49年3月8日まで

⑤ 昭和49年3月9日より昭和50年3月10日まで

⑥ 昭和50年3月11日から昭和51年3月10日まで

⑦ 昭和51年3月11日から同年4月23日まで

⑧ 合計

①+②+③+④+⑤+⑥+⑦

=15,892,172

(四) 右によれば、本件借入れによる実質利息は、地方債を起こす方法によつた場合よりもむしろ低額であつたといえるから、本件借入れによる損害は何ら発生していないことになる。

3  本件借入れの緊急性等について

昭和四二年度末当時、大野見村においては、昭和三八年台風による激甚災害の復旧工事がなお未了であり、加えて、数年来復旧工事に重点が置かれてきたため一般の各種事業の実行が停滞している状況であつた。このような時期に村長に選出された被告は、懸案となつていた右復旧事業や一般の各種事業を一挙に遂行して村民生活の安定と村行政の向上を図るべく、右費用調達のために本件借入れをなしたものであり、その緊急性は十分に認められるところである。

もつとも、本件借入金を直ちに一般会計に繰り入れ右事業のために予算執行することは、本件借入金の全額について行われたわけではない。すなわち、被告は、うち一八九一万円については、借入れ後直ちに一般会計に繰り入れ、右事業の実施予算に充当したが、その余の九五二万六二二〇円はワリノー購入に充当した。これは、当初一挙に施工することを考えていた事業の一部が、事業主体の高知県の施工時期との関連から数年度にわたつて継続することが判明したため、直ちに予算化できず、後年度支出とせざるを得なくなつていたところ、本件借入金の実質的な貸主である農林中央金庫から半ば強制的なワリノー購入方の要請があり、後年度支出分の有利な運用には有用であつたため、ワリノーを購入したものである。その後、前記のとおりこれを運用しながら昭和四九年度までに運用しながら昭和四九年度までに運用利息を含む一一六四万四〇〇〇円を一般会計に繰り入れたうえ、右事業を逐次実施したものである。

以上のとおりであつて、本件借入れの必要性もあり、ワリノー購入やその運用についてもやむを得ない事由があつたというべきであるから、この点について村長としての被告に格別の過失はない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2及び6の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二主位的請求――請求原因3――について

原告らは、本件借入金二八五〇万円は被告がすべて業務上横領した旨主張するので、以下検討する。

右当事者間に争いがない事実に、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

1  昭和四三年三月二六日大野見村に入金された本件借入金二八五〇万円は、同日直ちに、そのうちの六万円余が本件契約に伴う登記費用に充てられたうえ、一二九一万円が昭和四二年度一般会計に、六〇〇万円が昭和四三年度一般会計にそれぞれ繰り入れられ、その残金九五二万六二二〇円は一年満期のワリノー(額面一〇〇七万円)の購入に充てられた。そして、このワリノー購入については、満期到来時に必要額だけ一般会計に繰り入れ、その残額で再び買い替えることが繰り返された。このような資金運用の結果、二十数万円が本件山林の管理費用に充てられたほか、次のとおり各年度の一般会計に総額一二〇三万三七八三円が繰り入れられた。

昭和四四年度 三〇九万〇〇〇〇円

昭和四六年度 二一三万八〇〇〇円

昭和四七年度 二一四万〇〇〇〇円

昭和四八年度 二一三万八〇〇〇円

昭和四九年度 二一三万八〇〇〇円

昭和五一年度 三八万九七八三円

2  一般会計への右繰入金総合計三〇九四万三七八三円は、すべて各年度予算として適宜調整され、村議会の議決を経て執行された。

もつとも、右金員は、すべて一般財源として繰り入れられたものであるから、予算上の歳出項目を特定することができないけれども、実質的には次のような目的のために支出された。すなわち、昭和四二年度及び昭和四三年度に繰り入れられた一八九一万円は、林道工事、給食センター建設、道路、舗装、水源かん養林取得、集落補強等の公共事業遂行のために支出され、また、昭和四四年度に繰り入れられた三〇九万円は、「青年の家」建設用地取得、集落補強等の公共事業遂行のために支出され、更に、昭和四六年度から昭和四九年度までに繰り入れられた八五五万四〇〇〇円は、本件借入金の利息引当金に充てられた。なお、昭和五一年度繰入分の三八万九七八三円の支出目的は不明である(以下、このような意味で「使途不明」という。)。

以上の事実が認められ、この認定に反する〈証拠〉は、いずれも前記各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、本件借入金は、その運用利息も含めてすべて、本件契約に伴う必要経費に充てられたか、又は、大野見村一般会計に繰り入れられ、予算の執行として同村のために支出されているものであつて、これについて、被告の業務上横領を認める余地は全くないというべきである。

したがつて、被告の業務上横領の事実を前提とする原告らの主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰着する。

三予備的請求――請求原因4――について

1  本件借入れが地方自治法二三〇条、二五〇条に反することは、当事者間に争いがない。これによれば、本件借入れは違法といわざるを得ない。

2  次に、原告らは、違法な本件借入れによつて大野見村が蒙つた損害は、本件借入れに伴う利息相当額の全額である旨主張するけれども、地方自治法に従つて大野見村が地方債を起こし資金を調達したとしても利息等の費用の負担を余儀なくされるのであるから、右利息相当額の全額を損害と解すべきではなく、地方債の発行に伴い大野見村が通常負担するであろう利息等の費用に相当する額は、損害にあたらないものと解するのが相当であり(最高裁昭和五五年二月二二日判決・判例時報九六二号五〇頁参照)、したがつて、本件借入れによる損害額は、本件借入れに伴つて負担した利息額から、地方債発行の方法によつていた場合に通常負担するであろう利息額を控除して算出すべきであり、以下かかる見地から本件の損害を検討する。

(一)  本件借入金の利息として大野見村が支払つた金額が一七四三万五七五二円であることは、前記のとおりである。ところで、本件借入金のうち、九五二万六二二〇円については、ワリノー購入による運用がなされた結果、これが一二〇三万三七八三円に増額していることも、前認定のとおりであり、この事実によれば、本件借入金によつて右の差額二五〇万七五六三円の収入を得ていたことになる。したがつて、本件借入金の実質利息は、右支払額より右収入額を控除した金額であるべきだから、結局のところ、一四九二万八一八九円となる。

(二)  〈証拠〉によれば、大野見村のような普通地方公共団体が発行する地方債は、政府がこれを引き受けて資金を貸し付けるのが通常であることが推認されるから、本件借入れについても、政府引受の地方債を発行することに伴う利息を算出するのが相当である。

しかして、〈証拠〉によれば、本件借入れ時の昭和四二年度の政府資金の利率は年6.5パーセントであつたことが認められるから、本件借入れを地方債発行によつていた場合に生ずる利息は、次の計算式のとおり、昭和四三年三月二六日から昭和五一年四月二三日までの八年と二九日で一四九六万七一八四円となる。

(三)  右によれば、地方債発行によつた場合に通常伴う利息の方が本件借入れによる実質利息よりもわずかながら高額であるといえるから、本件借入れによる損害はないことに帰着する。

3  以上のとおり、損害の発生が認められないので、請求原因4は理由がない。

四予備的請求――請求原因5――について

原告らは、本件借入れは、その必要もないのに漫然と行われたものであり、村財政の適正な運営にあたる村長としての注意義務に反し違法であるから、これによつて大野見村が蒙つた利息相当額の損害を被告は賠償すべきである旨主張するので、以下検討する。

1 一般に、究極的には住民の税金に依拠する地方公共団体の財務運営は、できる限り効率的に行わなければならず(地方財政法四条一項参照)、運営資金の借入れについても、当然利息の負担が伴うものであるから、特段の事情がない限り、使途目的が確定したもののうち、その使途が緊急を要し、かつ、必要最小限度の範囲に限つてなされるべきであり、地方公共団体の財務運営にあたる長が、これに反し漫然と過大な借入れをしたときには、右の各要件を逸脱する部分は、違法な借入れと解するのが相当である。

2  そこで、これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、昭和四二年度当時、大野見村においては、昭和三八年台風による激甚災害の復旧工事がなお未了であり、加えて数年来右復旧工事に重点が置かれてきたため一般の公共事業が停滞しており、村民生活の安定と向上を図るためには、これらの復旧工事や一般公共事業を早期に遂行する必要があり、このような事情から本件借入れがなされたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

しかして、本件借入金のうち、一八九一万円が借入れ直後に昭和四二年度及び昭和四三年度一般会計に繰り入れられたうえ、各種の公共事業のために支出されたことは、前認定のとおりであるから、この一八九一万円については、適法な借入れのための前記各要件を逸脱するものとは到底いい難い。

3  これに対して、本件契約費用を除くその余の九五二万六二二〇円は違法な借入れであつたと判断される。

すなわち、右金員は、本件借入れと同時にワリノー購入に充てられているものであつて、しかも、その後の運用利息を含めた合計一二〇三万三七八三円のうち、公共事業遂行のために支出されたのは、わずか三〇九万円のみであり、その余は本件借入金の利息引当金に充てられたか、若しくは使途不明であることは前認定のとおりであり、また、〈証拠〉によれば、右三〇九万円が一般会計に繰り入れられたのは、本件借入れから二年も経過した昭和四五年三月二六日であり、その余については、更に遅れて昭和四七年四月二四日以降に一般会計に繰り入れられていることが認められる。以上の事実によれば、そもそも借入金の使途目的としては全く不合理といえる利息引当金に充てられた部分や使途不明部分はもとより、公共事業に支出された三〇九万円についても、本件借入れ当時においては緊急性を欠いていたものと認められる。

ところで、被告は、当初、各種の公共事業を一挙に実施することを考えていたが、一部が事業主体の高知県の施工時期との関連から数年度にわたつて継続することが判明したため、右九五二万六二二〇円については直ちに予算化することができなかつた旨主張し、〈証拠〉中には、これにそう部分がある。しかしながら、前記のとおり公共事業に充てられたのは、本件借入れの二年後に繰り入れられた三〇九万円のみであり、しかも、〈証拠〉によれば、三〇九万円のうち二四二万五〇〇〇円は、高知県とは無関係の前記「青年の家」建設用地の取得のために支出されていることが認められるから、これらの事実に照らし右各証拠はにわかに措信できず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

また、被告はワリノー購入の事情について、実質的な貸主である農林中央金庫から半ば強制的な要請があつた旨主張する。〈証拠〉によれば、本件借入れの際、実質的な貸主である農林中央金庫からワリノー購入について熱心な勧めがあつたことは認められるけれども、融資の条件としてワリノー購入が強制されたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、したがつて、被告が必要な範囲に限つて借り入れることにつき格別の支障はなかつたものといえるから、九五二万六二二〇円の借入れが不必要との前記認定は変らない。

更に、被告本人尋問の結果中には、本件借入れについては、売渡担保の形をとつたので、一括して担保価値の限度額である二八五〇万円を借りるより仕方がなかつた旨の供述があるけれども、借入れのための担保供与の形式によつて借入金額を決めるというのは本末転倒であり、地方公共団体の長としては、まず緊急に必要な借入額を把握し、この金額に即応した担保供与を検討すべきであるから、右供述どおりであつたとしても、それ故に前記認定が左右されるというものではない。

そして、前記認定の事情にも拘らず、右九五二万六二二〇円の借入れが適法であつたと認めるに足る特段の事情については、他に何らの主張立証もない。

以上の次第であるから、本件借入れのうち、右金額については、緊急性を欠くものであつて違法借入といわざるを得ない。

4  そこで、右違法借入れによつて大野見村が蒙つた損害について検討する。

大野見村は、被告が右九五二万六二二〇円を過分に借り入れたことにより、それに伴う利息の支払を余儀なくされたものといえるから、右利息相当額の損害を蒙つたものと判断すべきところ、前認定のとおり右金員に対する利率は年7.5パーセント、借受期間は昭和四三年三月二六日から昭和五一年四月二三日までの八年と二九日であるから、右損害は、次の計算式により五七七万二四九七円となる。

しかし、他方において、前認定のとおり、右違法借入分については、ワリノー購入による運用が図られ、二五〇万七五六三円の利息収入があつたところであつて、この収入は、違法借入れに起因して生じた利得とみるのが相当である。

したがつて、違法借入れによつて大野見村が蒙つた現実の損害額は、右損害額から右利得額を控除して算出すべきであるから三二六万四九三四円となる。

5  以上のとおりであるから、被告は、大野見村に対し、右損害金三二六万四九三四円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和五二年九月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五結語

よつて、原告らの主位的請求は、理由がないので棄却し、予備的請求は、右認定の限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(山口茂一 坂井満 大谷辰雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例